大雪山における山岳環境改善の取り組み
~第2回山のトイレフォーラム(2001.2.3)から~

                 北海道上川支庁地域政策部環境生活課自然環境係 小林隆彦

【クリーン大雪運動について

持ってきたものは全て持ち帰る、持ってこないものは何一つ持ち出さない。
 昭和52年~大雪山国立公園の美化と保全を図るため、関係行政機関が中心となりゴミの持ち帰り運動を中心に活動。 山岳地帯、特に高山帯での屎尿処理が問題になっていることから、平成11年度に「トイレ持ち帰り運動」を事業に追加、平成12年度にそれに伴う意識調査を実施。

【大雪山における屎尿処理の現状問題点】

<野営指定地及びその周辺>

1 トイレ等の施設がないため、周辺に屎尿が多数放置されている。
2 用便の際使用したティッシュペーパー等の紙が多数散乱しており、非水溶性の物が多いため、長期間分解しない。
3 用便適地を探すため周辺に植生の踏み荒らしが目立ち、近年急速に拡大している。

<山小屋(避難小屋)周辺>

1 設置しているトイレが利用者の増加により収容量を超えている。
2 清掃管理が行き届かないこと及び、利用が定時に集中することから、トイレを利用しない者もあり、野営指定地と同じ問題を抱えている。

<歩道及びその周辺>

1 歩道には用便施設がなく、途中の用便適地と思われる場所は、野営指定地周辺と同じ問題を抱えている。

【考えられる解決策】

1 トイレットペーパーの使用。
2 ペーパー等の持ち帰り。
3 携帯トイレによるし尿の持ち帰り。
4 既存トイレの清掃管理強化。
5 既存トイレのくみ取り。
6 利用者数に相応したの用便施設(トイレ)の整備。

 これらの解決策については、今の状態を出来るだけ早く改善することに主眼を置いたもので、それぞれ実効性について検討。  また、並行して、将来にむけて、利用に関する何らかの規制など、利用のありかたも視野に入れた長い目で見た検討も必要であり、出来ることを実施しながら、多くの方と意見を交換していきたいと考えています。

【解決策の検討】

解決策 1,2

用便後のティッシュペーパーについては、長期間分解せず、また、風等で飛び、場所によっては、ハイマツ・高山植物にティッシュの花が咲くと言われている。 そのため水溶性のトイレットペーパー等を使用することで分解促進を図ることは可能であり、さらにペーパーを持ち帰ることで環境は改善されるが問題は残る。

問題点

1 用便適地を探すための植生の踏み荒らし。
2 屎尿による環境への影響。

解決策 3

携帯トイレによる屎尿の持ち帰りは、有効な解決策の一つであると考え、当面課題 を整理し、大雪山系広域での実施について検討が必要である。

問題点

1 用便適地を探すための植生の踏み荒らし。
2 普及啓発をいかに図るか。
3 使用後の携帯トイレの運搬、処理及びそれにかかる費用。

解決策 4,5,6

既存トイレの汲み取り清掃管理については、課題が多い。
主要野営指定地等へのトイレ設置については、現状では非常に難しく、設置後の管理についても困難な課題が多い。

問題点

1 既存トイレの維持管理(避難小屋併設汲み取り式トイレ)
  ・清掃等の人的管理が困難である。利用者のモラルの向上が必要である。
  ・ 高山帯のため、汲み取りにヘリコプターを使用する等多額の費用がかかり、天候にも大きく左右され   る。
2 トイレの新設

・ 施設の設置場所が非常に厳しい自然環境下に位置し、エネルギーを必要とする機械類については、自 然エネルギーだけでそれを補うことは困難である。
・ 現在の汲み取り式トイレは、水分地下浸透式であるが、地下水汚染の問題を考えた場合、完全貯留式 が理想であるが、汲み取りに多額の費用がかかる。
・ 生理現象のため、利用時間が集中すること、また、利用時期が集中することから、1カ所1基の設置で  は、問題解決にならない。
・原生の自然環境の中に構造物を設置することについての検討が必要である。

「大雪山に将来も大雪山であってもらうために」わたしたちができること・・・
多くの意見を参考にして、よりよい方向を検討していきたいと考えています。

【平成12年度の取り組み】

 平成12年度においては、改善策の一つである「携帯トイレによる屎尿の持ち帰り」に関する意識調査を実施するとともに、携帯トイレの使用及び処理に関して試験的な取り組みを実施し、また、あわせて既存避難小屋付帯トイレの屎尿搬出を行った。

<意識調査の実施>

資材配布
 携帯トイレセット(便袋、脱臭剤、持ち帰りパック)
配布個数~1,500個(旭岳ビジターセンター約500、層雲峡ビジターセンター約500、 関係機関等約500<クリーン大雪登山会、パークボランティア、山岳会、学校登山、 他関係機関>)

 ★意識調査に関するチラシ
 調査用紙~アンケートはがき

調査概要

* 携帯トイレ・脱臭剤・持ち帰り用パックを1セットとして、中に調査チラシ及びアンケートを同封して配布。
* 層雲峡ビジターセンター、旭岳ビジターセンターにおいて、指導者のいる団体及び、調査協力を申し出たものに対し、無料で資材を配布してアンケートの提出を依頼した。
* メディアを活用し、調査実施についてのPRを実施し、e-mail及びFAXでの意見募集を実施。

<携帯トイレの使用・処理及び用便適地の確保に関する試験取り組み>

・携帯トイレ回収ボックスの設置
   設置場所~旭岳ビジターセンター及び層雲峡ビジターセンター
 ・携帯トイレ専用仮設ブース(テント)の設置
   設置個所~黒岳石室 2基

<既存汲み取り式トイレの維持管理>

 *9月に「白雲岳避難小屋」及び「忠別岳避難小屋」付帯トイレの屎尿をヘリコプターを使い搬出。